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淫魔の香気 2話

 結論から言うと、異変は想像よりも深刻なものだった。
 エルフが住まうはずの城の場内も、異変によって色欲にそまった者達で満たされていた。
 城門でも、食堂でも、はたまた玉座の間でも彼らはところかまわずといった様子で交わりをしていた。

 現在俺はというと、城内のバルコニーに隠れ彼らをやり過ごしていた。
 よくない状況だった。
 先程、何人かのエルフに見つかってしまったのだ。
 この城の中には村の男達や男のエルフもいたものの、絶対的に女性のほうが数が多かった。
 男一人につき、何人ものエルフ達が群がれるだけ群がり性交を行っていた。
 それでもあふれてしまうものがいた。

 そんなあふれでたエルフ達に見つかってしまったのだ。
 彼女達は俺を見つけると肉欲の色を浮かべこちらに向かってきた。
 彼女達の性的な魅力は、ここに来るまでの何度か行った交わりでよくわかっている。
 そういった者達を何人も相手にしたらあっという間に果てて、自分も彼らたちのように肉欲をむさぼってしまうことになるのは明白だった。
 だから一目散に逃げ出し、今はこうしてバルコニーに隠れているというわけなのだ。

 そっと窓から城内の様子を覗いてみる。
 まだ中には、さっきまでそこにいたはずの男を捜しているエルフが複数人いた。
 このままでは見つかってしまうのも時間の問題だろう。
 なにせこの城は、彼女達の城なのだ。
 隠れられそうな場所を探していけば、いずれこのバルコニーにたどりつく。

 手すりから下を見降ろした。
 ……飛び降りるのは無理だろう。
 ここは大体4階くらいの高さだろうか。
 いくら下が芝生といえど、死んでしまう可能性がある。
 でも中にも戻れない。
 限られた時間の中自分にできることを考えると、外の壁伝いに他の部屋に逃げるのが最善に思えた。
 下の階に降りるのは難しい作りになっていたが、その分同階の他の部屋に移動するのは何とかなりそうだった。
 人一人が通れそうなほどの足場がある。
 手すりを跨ぐと、そこを伝って移動を開始した。

 壁の凸になっている部分をつかみながら慎重に移動する。
 途中足場から小石が下に落ちると、落下の長さからここが如何に高いのかを思い知らされる。
 これまでとは違った意味で危険だった。
 何でこんなことをしているんだろうか……?
 そう思って自分の任務を思い出す。

 そうだ、俺は城の中にまで侵食しているこの異変を解決しなければならないんだった。

 とにかくまだ理性を持った人物がいるかもしれない。
 自分に出来ることはそういう人を探し、話を聞くことだ。
 改めて気持ちを入れなおした。

 足場を伝い建物の角を曲がると、一つの部屋にたどり着いた。
 俺はそこのバルコニーに入りほっと一息つく。
 手汗がびっしょりで握力もなくなっていたので危なかった。
 しばらく休憩し呼吸を落ちつけてからその部屋の中を覗いた。

 カーテンの隙間から見えたそこには、白いヴェールが装飾された大きなベッドがあった。
 それ以外には小さな机やクローゼットが置いてある。
 その部屋の大きさと、豪華な家具から考えるにおそらく身分の高い人物の寝室なのだろう。
 よく見るとベッドの上には誰かが寝ていた。
 レース越しでよくは見えないが、交わりを行っているわけではなさそうだ。
 長い髪が見えたのでたぶん女性で、その部屋には彼女1人しかいない。
 まだ理性を残している人物かもしれないという期待が生まれた。

 窓をコンコンと軽くたたいた。
 ……。
 しばらく待ったが返事がない。
 もう一度、今度は少し強めにたたいてみた。
 が、同じことだった。
 なんとなしに窓に手をかけると、それは抵抗なく開いた。
 鍵がかかっていなかったのだ。
 不用心だなと思いつつそこから中に入らせて貰うことにした。

 部屋に入ると女性の物と思わしき声が聞こえてきた。
 それは、話し声でも、寝息でもなくどこか熱の入った色のあるもの。
 俺はまだ気付かれていなかったようなので、クローゼットの影から静かに様子を覗うことにした。

 つややかで柔らかい質感を思わせる長い金色の髪、白く汚れの無い肌、バランスのとれた凜とし整った顔、王女様という言葉がぴったりの奥ゆかしい美女がベッドの上にいた。
 彼女は眠っているわけではなく、豊満な母性を感じさせる胸を露わにしあろう事か自慰に耽ふけっていた。
 気品のある衣服をはだけさせ、手に余るほどの胸を揉みしだきながら秘部を弄っていた。
 指の先が彼女の中に挿れられると、くちゅっと水音がしかすかな嬌声も洩れていた。
 さっき聞いたものは、自慰に耽る彼女の声だったと理解した。

 俺は、その品位の高そうな美しい女性の自慰に見入ってしまった。
 淫魔とは無縁の存在に思える彼女の姿に、俺の淫魔ハンターとしての経験は役に立たなかった。
 ただぼうっと自分の物を大きくさせながら、彼女を犯したいという想いが浮かんだ。
 そこで理性を取り戻した。

 こんな異常な状況に陥った城内で、交わりこそ行っていないものの彼女も情欲に染まっている。
 ならば彼女もこの異変に巻き込まれたに違いない。

 そうなれば男である俺がここに居るのは非常に不味い状況だ。
 早くこの部屋から立ち去ろうと考え、静かに窓際に戻り窓を開けようとした。
 しかし入ったときには鍵がかかっていなかった窓が、なぜか開かなくなっていて力を入れた拍子にいやな物音を立てた。
 室内に響くその音は彼女に俺の存在を教えてしまった。

「だ、誰ですか!?」

 振り向くと、ベッドの上から俺を見つめている彼女の姿があった。

「す、すみません! すぐに出て行きますので!」

 俺は慌ててそう言い、入り口のドアの方へと進んだ。
 そしてドアノブに手をかけたところで、 

「待って下さい、アレク君!」

 彼女は俺の名前を呼んだ。 
 初対面であり、知っているはずのない自分の名前を呼ばれたことに驚き足が止まる。
 再びベッドを見ると彼女が潤んだ目で見つめていた。
 その姿に、ドキッと心臓が音を立てる。

「お願いです……行かないでください。ここに来て私の話を聞いてください……」

 彼女は消え入りそうな声で言った。
 その庇護欲を掻き立てるような彼女の姿に迷いが生じる。

 でもさっきまで彼女は自慰に耽っていた。
 きっと異変による肉欲に染まっているはずだ。
 彼女のことを考えるなら足早に去ったほうがいい気がする。

 だが、こうしてまともに話しかけてきた事も確かだ。
 彼女の他に話が出来そうな人物はいなかった。

 迷ったあげく俺は彼女の横に行き静かに腰を掛けた。
 近くに行くと彼女のやわらかい花のような香りと、男を誘うような雌の匂いが感じられた。

「ごめんなさい……こんな格好で……」

 彼女はベッドにあったシーツを羽織るとはだけた肌を隠した。

「自分のほうこそ、す、すみません! こんな覗き見るようなことをしてしまって……」

 そう言うと彼女は顔を赤らめながらも優しい笑みを浮かべた。

「いいんです……こんな昼間からそんなことしているだなんて誰も思わないですものね……私は、この城の王女でエルミアと言います……」

 やはり王女様だったのか。
 エルミアから伝わる高貴な雰囲気も、この立派な部屋にいたことも納得出来た。
 そして俺も自分の自己紹介をしようとして、はっと気が付いた。
 彼女は俺の名前を知っていて、さっきそれで呼んできた。
 なぜなのか訊こうとすると、彼女はそれ遮るように話を続けた。

「聞いてください……。今この城を中心に淫魔の香気が発せられています」

「淫魔の香気……?」

 聞き慣れない言葉だった。

「そうです……。昔から伝わる秘術を使った香りで、女性がその匂いを吸うと情欲に染まり男を求め淫魔になってしまいます……。このままでは、もっと範囲を広げ森に住まうエルフや妖精達が皆淫魔になってしまいます。それを止めるのを手伝って欲しいのです」

 彼女は時折苦しそうにしながら、今起こっていることを必死に伝えてきた。

「ど、どうすればいいんですか?」

「その香気は1人の人物から発せられています。その人を満たしてあげれば良いのです……」

「満たす……ですか」

 おそらく満たすというのは性的絶頂に導いてあげることだろう。
 なら淫魔ハンターである俺が発信源になっている人物を探し頑張ればいいのだ。
 そうわかると一刻でも早くここに居る彼女を……皆を救ってあげなければという想いが生まれた。

「わかりました! じゃあその人を探せば――」

「うぅぅ…………!」

 と、急にエルミアが苦しそうにベッドに倒れた。
 うずくまって細い声を上げながら震えている。

「だ、大丈夫ですか!?」

 とっさに彼女に駆け寄り肩を持った。
 すると急に彼女は俺の手首を掴み、ぐいっと自分の方に引き寄せた。
 その勢いで俺はベッドに倒れ込み、上を見るとすぐそこに彼女の紅潮した顔があった。
 熱を持った吐息が顔をくすぐるようにかけられる。

「お願いがあります……私を、犯してくれませんか?」

 そして艶のある声でそう囁いてきた。
 エルフの王女である絶世の美女に囁かれる最高のシチュエーション。
 一瞬、我を失いそうになった。

「――っ! ダメです! あなたは、エルフの王女様なんでしょう? こんなところで俺なんかと交わっていいはずがありません」

 エルミアはエルフの王女だ。
 身分の高いエルフの、王族の女性なのだ。
 今ここで彼女を一時的な欲望から救うためにしろ情事に走るのは絶対に良くない。

「でも無理なんです、自分を押さえることが出来そうもないんです……」

 だが彼女は、あきらめる様子を見せず捨てられてしまう子犬のような目で見つめてきた。

「しかし……」

「押さえきれなくなって、男の人を襲ってしまったら……私は……」

「……」

 確かに彼女と交わるのは良くないが、精を受けて淫魔になってしまうことはもっと良くないのかもしれない。

「お願いです……」

 そう言うとエルミアは、シーツを取り去り俺の目の前で胸も秘部も晒した。

「――っ!」

 高貴な女性のあられもない姿に呼吸が止まりそうになる。
 彼女は仰向けになると股を開き、手をさしのべてて誘いはじめた。
 毛の生えていない秘部に視線を移すと、ぬめっているのがよくわかる。
 彼女が男を受け入れる準備は既に出来ていた。
 その姿は判断を鈍らせた。 

「……わかりました。でも挿入は出来ません……。あなたを汚したくないんです」

 しかし、やはり王女様と行為に走るという勇気は自分にはなかった。
 それに彼女の汚れ無き、美しい肌と美貌は触れていいのかもためらうほどだった。

「いやっ……そんな事言わないで下さい。あなたのが欲しいんです……。それに指じゃきっと無理です。私もさっきから自分で慰めているんですがダメなんです……」

「でも……」

「いいんです……あなたなら……私達を助けにここまで来てくれたのでしょう? お願いです……私のことも助けて下さい」

「…………」

 目を潤ませ懇願してくるエルミアの願いを断り切れなかった。
 それに彼女を犯したいという欲望も、無いと言えば嘘になる。
 俺は自分のズボンを脱ぎ、彼女の痴態をみて勃起したモノを出した。

「あぁ……そうです。それを私に挿れてください……」

 彼女がうっとりとした声を出した。
 俺は仰向けになっている彼女に近づき、達膝の状態でひくひくともの欲しそうに蠢く彼女の秘部にそれをあてがった。
 にちゅっと、愛液と亀頭が触れた水音がした。
 その先からは、彼女の熱い体温が伝わる。

「ごめんなさい……じゃあ挿れますね」

 そう言って、俺はエルミアの中に自分のペニスをゆっくり挿入していった。

「んあぁ……あっ、あ……アレク君が、私の中に広がって……んっ……」

 途中で何かに引っかかった感触がしたが、膣内も十分にぬめっていたためそのまま奥へと入り込んでしまった。

「くぅっ……!」

 とたん甘美な感触が広がり声が洩れた。
 肉の壁が四方からきゅっきゅっときつく締め上げながら、精液を出させようとじんわり蠢いている。
 ペニスに与えられるその感触は、直な快感となって俺に襲いかかる。
 思わず腰が引けた。

「はやくっ……めちゃくちゃになるくらい犯して下さい!」 

 エルミアは俺の腕を掴みながらせがんできた。

 そうだっ!
 早く彼女のことを絶頂させなければ。
 もともとそうのつもりで、この行為をしているのだ。
 彼女を感じさせるために腰を動かし始めた。

「あっ、あ……んぁっ……そ、そうです……もっとそうやって、私の中にいっぱいアレク君を感じさせてださい……」

 彼女はしがみつきながら、俺の名前を呼んでいた。 
 とにかく一心に腰を上下させる。
 しかし、

「あくっ……エルミアさんの中、良すぎて……!」

 ぴったりとフィットするようにペニスに吸い付いてくる膣肉と、とろとろの愛液によって、俺は始まって間もないのに危ない状態になっていた。
 自分の体重を支えていられなくて、彼女のたわわな胸をクッションにするように頭を置いた。
 その身体を預けた状態で必死にペニスを出し入れする。

「うふふ……嬉しいです、もっとたくさん気持ち良くなって下さい」

 エルミアはそんな俺の頭を包むように手を置いていた。

 おかしい……。

 エルフィンと交わったときもそうだったが、森に入った直後よりも確実に身体に力が入りづらくなっている。
 最初は連戦による疲れが原因かと思っていたが、どうやらそうではないようだ。
 今の状態では自分に主導を置いて絶頂させると言うことが難しい。
 それに……

 びくっびくっ

「うぁ……!」

「あっ……おちんちんが私の中で震えて……」

 快感に対する耐性もなくなっている。
 エルミアの膣が良すぎるのもそうだが、加えて何か俺の身体に起こっていることが受ける快楽を増加させている。
 我慢が出来ずにエルミアの中に先走りを出してしまっていた。

 悪い状況だ。
 このままでは淫魔にしないようにと彼女を抱いたのに、俺の方が先に絶頂に導かれ彼女を淫魔にしてしまう。
 そんな事になれば本末転倒だ。
 俺は彼女の中から自分のモノを引き抜くため腰を引いた。

 ぎゅうっ――!

「なっ……!」

 しかしそれはエルミアが足をからませたことによって阻止された。
 むっちりと肉が付いたふとももが、俺の腰を挟み込んで抜くことを許さない。

「ダメですよ……私の中からおちんちん抜いちゃぁ……」

 エルミアはにやりと妖しい笑みを作りながら俺のことを見てきた。
 その表情は精を貪欲に求める淫魔のそれだった。
 まさか彼女はすでに完全に香気に侵されていたのか?

「エ、エルミアさん……このままだと精液が出ちゃいそうなんです、抜かないと……あなたが危ないんです!」

 俺は必死になって彼女に訴えた。

「射精しちゃいそうなんですか? いいですよ……そのままアレク君の精液を私の中に注いで下さい」

 だが彼女は淫魔になるということにも聞く耳をもたず、精液をねだってきた。
 そしてエルミアは足を締め込むことで俺を自分の方へ引き寄せた。

「……遠慮はいりません。いつでも受け入れる準備は出来てますから……」

 エルミアは再び倒れこんだ俺の頭を撫で、耳元で囁いた。
 甘い誘惑に、我慢の鎖が解かれそうになる。
 残っている理性がそれと必死に戦っていた。

「エルミアさん……やめて下さい! ……早く抜かないと」

 そうして抵抗を続けていると、

「……そんなに私の中に出したくないんですか?」

 彼女は機嫌を悪くしたような低い声で言った。

 と、その瞬間世界が反転した。
 何が起こったかわからない。
 しかしすぐに自分の目の光景と、身体に伝わる感触に状況を理解させられた。

 腰の上に感じるエルミアの体重と柔らかい肉の感触。
 上を見れば、高い位置から俺を見下ろしてくる彼女の顔。
 俺は一瞬にして彼女に組み伏せられ、騎乗位の状態に持ち込まれていたのだった。

「アレク君はひどい子ですね……こんなに精液を欲しがっている私にお預けするなんて」

 そう言うと繋がったままの状態で彼女は腰をぐりぐりと押しつけてくる。
 それにより中で肉壁に揉まれ擦られるペニスにはたまらない快感が押し寄せる。
 確実に自分に不利な状況に陥った。
 抵抗しようにも仰向けに寝かされ、エルミアがふとももを腰に密着させてくるのでまともに動くことすら叶わない。

「うくっ……ち、違うんです! 精液が出たら、エルミアさんが淫魔になってしまうんです! それだけは避けないと」

「いいんです私はアレク君の淫魔になりたいんですから……」

「な、何を言ってるんですか! 正気に戻ってください!」

「アレク君こそ何を言ってるんですか? 私は最初から正気ですよ?」

 俺はエルミアが香気に犯されそのような行動に走ったと思った。
 しかし彼女はそれを否定した。

「どういう意味ですか……?」

「どういう意味も、そのままの意味ですよ……どうして私がアレク君に抱かれたがっていたと思っているんですか?」

「それは……欲求を、一時的抑えるためじゃ……?」

「全然違いますよ。私は最初からアレク君の淫魔にして欲しくて抱いてもらったのですから」

 エルミアは当然のように言い放った。

「そんな……」

「だから精液を中に出してもらわないとダメなんです」

 彼女はそれを求めるように腰をくねらせた。
 肉の中で包まれたペニスにまた甘美な感触が伝わる。
 この状態のままでは、なすがままに彼女の求めるとおり精液をささげてしまうことになる。 

「うぁっ……ど、どうしてですか?」

 組み敷かれ主導を奪われた状態では、自分にできることは限られている。
 俺は彼女との対話によってどうにかする糸口を見つけようとした。
 するとエルミアは影を落としたような表情をしながら質問を投げかけてきた。

「アレク君…………なんで私があなたの名前を知っていたのだと思っていますか?」

「……」

 彼女のその質問。
 俺も疑問に思っていた。
 なんでエルフの王女が村のしがない男を知っているのか。
 淫魔ハンターとしても新米な俺は、自分の名前が知れ渡っているとも思えなかった。

 なら以前に会ったことがあるという考えに至るのが自然だ。
 その考えは自分の記憶の片隅に、幼いころに静寂の森で見た1人の美しい女性のことを思い出させた。

「――! エルミアさん…………俺はもしかして昔あなたと」

「そうです……私達は何年も前ですが一度出会ったことがあるんですよ」

 そう言われ蘇る昔の記憶。

 それは俺が外で駆け回るのが好きな少年の頃だ。
 昆虫を追いかける内に静寂の森に迷い込んだ。
 帰る道もわからず泣きわめいた時に森の奥から現れた美しい女性。
 彼女は俺のことをなぐさめると家まで送ると言ってくれた。
 俺はそれが嬉しくて、村に帰るまでの道で彼女と沢山の言葉を交わした。
 彼女の表情は、とても楽しそうだった。

「私はあの時のあどけない少年のあなたに、あろうことか恋心を抱いてしまったのです…………だからこうして……ずうっとこの城で、アレク君と結ばれることを夢見ていたんです」

「エルミアさん……」

「でもエルフの……それも格式高い王族の私が、アレク君と結ばれることはありません。それはあってはならないことなのです。だから私は淫魔になる道を選びました。それほどまでにあなたのことが欲しいのです」

 そして彼女は「だから、はやくあなたの精液を下さい」と囁いた。
 妖しい誘いに耳から身体全体に鳥肌が立った。

「で、でも、淫魔になんてならなくてもいいじゃないですか? そんなものになってしまったらあなたは一生、精液なしでは生きていけなくなってしまうんですよ?」

「……確かに淫魔にならずにあなたと結ばれたならどれほど良かったでしょうか。でも誰がそれを許してくれるのですか? あなたは私を受け入れてくれたのですか? そんな問題が沢山あるのに、本当に淫魔にならずして結ばれることが出来たと思いますか?」 

 エルミアは俺に考えさせるように問い掛ける。
 答えがわからない質問に言い返すことは出来なかった。

「あなたの精を受けながら生きる……それは私にとって素晴らしいことなんです」

 彼女はうっとりと言った後、

「……それにもう手遅れなんですよ?」

 意味ありげな事を言葉にし、にやりと口角をつり上げた。

「淫魔の香気は私から発せられているのですから……」

 その言葉を発するエルミアの姿が、理性のかけらも感じられないただの淫魔に見えた。

「そ、そんなっ……!」

 俺の頭は混乱していた。
 まさか俺への想いが、彼女を狂わせエルフと妖精達を巻き込んだ異変の原因になっていたとは。

 さっき彼女が言っていた、発信の源となる人を満足させてあげると言うこと。
 それは性的な絶頂に導けばいいことだけだと思っていたが、彼女は淫魔にならなければ満たされないのではないかと思える。
 しかし彼女を淫魔にするというのは、自分自身の手によってということになる。
 そんな事はしたくない。
 彼女の一生を狂わせてしまう。

 だが、異変を解かなければ淫魔の香気は広がり肉欲に染まるエルフ達がもっと増えることになる。
 どうすればいいかなんて、わかるはずがなかった。

 動揺している俺を余所に、彼女は腰をゆっくりと上下に動かし始めた。

「んぁっ……私はずうっとずうっとこうして身体を重ね合い、繋がる日のことを待っていました。日が昇り月が昇り、沈んではまた昇る。その繰り返しの乾いた日々を……どれだけアレク君のことを考え待ちわびていたかわかりますか?」

 エルミアは俺の胸に手を付くと、そこを軸に肉壺の中にペニスを出し入れさせる。

「はぅぁ……エ、エルミアさん……!」

 今までじわじわと真綿で絞められるように快感を与えられていたペニスが、彼女の膣のひだに擦られて悲鳴を上げる。

「どうやったらあなたと結ばれるのかあらゆる事を考え……それでも結ばれることが出来ないとわかった時は、この満たされることのない生涯を終えようかとも思いました」

 すっかりペニスの形を覚え馴染んだ膣が擦られると、蕩けていくような感触が広がる。

「そんな中アレク君が淫魔ハンターになったと聞きました。それは今まで知らなかった淫魔というものを知るきっかけになり、この香気を発する秘術を学ぶ事にもなりました。だから淫魔さんにはとっても感謝しているんですよ?」

「うぅぅ……」

 ペニスと膣肉の境界線が感じられず、それはまるで本当に溶け合っているのだと錯覚させる。

「でも感謝している反面、もの凄い嫉妬と怒りもあります……」

 彼女が腰を振る速度を速めると、結合部からあふれ出た愛液がぬちゃぬちゃと卑猥な水音をたてる。

「アレク君は淫魔ハンターとなってからいったいどれだけの女の子を抱いてきたのですか?」

 そのあふれ出た愛液は、俺のペニスを伝い睾丸を流れ尻の方にまで達する。 

「こんなにあなたを想っている私の事を忘れ、放っておいて、いったいどれだけ雌の肉穴にこのおちんちんを挿れてきたのですか?」

 エルミアが腰を動かす度に豊かな胸がたぷたぷと柔らかさを目に焼き付けるように揺れ動く。

「誰のおまんこが一番気持ち良かったのですか?」

 今度は一旦腰を振るのをやめると、中のねっとりと絡みつく膣肉をあわせるようにお尻を押しつけ根元まで包み込まれた。 
 そして、逃がさないとでも言うようにぎゅっと中を締め上げた。
 とたん耐えきれない快楽に欲望の先汁が彼女の中に飛び出る。

「うぁっ……!」

「うふふもちろん、私ですよね? そう言わないと許しませんから」

 エルミアは快感に震えるペニスを感じ取り、得意そうに笑みを浮かべた。
 それは愉悦の表情。
 自分が彼女という肉食獣に捕らえられた、1匹の山羊のように感じられた。

 これでは、本当に射精まで幾分の猶予もない。
 俺は何とかこの状況だけでも脱するように彼女をイかせようと、組み敷かれた体勢のまま彼女の腰を掴み下から突き上げてみた。

「あぁっ……アレク君……やっと私を求めてくれるのですね? んぁっ……いいですもっと突いて、あなたを感じさせてください!」

 エルミアは嬌声を上げ快感を享受しはじめた。

「はぁっ……はぁっ……!」

 苦しいほどの快感が降りかかる。
 でも、このまま突けば何とかなるかもしれないと考え必死に腰を振る。

「アレク君……アレク君……アレク君っ!」

 エルミアは俺の名前を呼び、ひたすらに快感を求めていた。

 一心に突き上げた。
 彼女を淫魔にしないためと思って必死になった。
 だがかなりの快感を感じているはずなのに、いくら突こうが彼女はいまだ絶頂していなかった。
 自分の限界はすぐそこに迫っていた。

「うぅ……もう……」

 これ以上彼女の膣を味わえば絶頂してしまう。
 そう感じ取ったところで腰を引いた。
 体力も限界に近く身体中には汗がにじみ、これ以上動ける気もしなかった。
 ベッドと彼女の身体に挟まれた俺には逃げる場所はなかった。

「んぁっ……もう、お終いなんですか?」

 エルミアが訊いてきた。
 彼女は感じながらも、まだまだ余裕があると言った表情だった。
 それは絶望という感覚を教える。

「どうでしたか? ……淫魔の香気に犯されながらの交わりは? 身体の力も上手く出せなかったんじゃないですか?」

 彼女はうふふと笑いながら尋ねてきた。

 そんな……!
 香気は男にも効果があるのか?

「淫魔の香気は女の人ばかりではなく、男の人にも効果があるんですよ? 匂いは感じられないと思いますが吸い込めばじわじわと体力を奪ってゆき、快感を受けやすくなるんです。アレク君はそんな中でよく頑張りましたね」

 彼女は俺をなだめるように髪を撫ではじめた。

「それに私は秘術によって絶対に絶頂しないんですよ……。想い人の精液を体内に受け入れるまでは……」

 それじゃあ、自分の体力と精力を削って必死になっていたのも無駄だったのか……。

「そうです、最初からアレク君は私と繋がった瞬間から精液を注ぐことが決まっていたんです」

 望みなど最初から無かったのか……。

「そんな表情をしないで下さい。膣内で射精する事によって今から私とあなたは結ばれるんですから……」

 エルミアは限界寸前まで高められたペニスを咥え込んだままゆっくりと腰を動かし始めた。

「……くぅっ!」

 裏筋を、舐めあげる様な感触がじっとりと伝わる。
 彼女は俺の限界を悟っているようだが、すぐには出させないようにゆっくりと行っていた。

「今からアレク君の精液をいっぱい出させてあげます。こうやってじわじわやった方がきっと沢山出ますから……我慢できなくなったらいつでも好きなときに……」

 何もかもを受け入れてくれる聖母のような表情を浮かべたエルミアが俺を見つめていた。
 彼女は俺の手を掴むと自分のおっぱいに持って行った。
 とたん、汗のにじんだ手に吸い付いてくる柔らかい胸の感触が伝わる。

「このやわらかいおっぱいも、あなたを包んでいるおまんこも何もかもあなたのものに出来るんですよ? さぁ迷いなんて捨てて私を受け入れて下さい……」

 手から伝わる柔肉、ペニスに伝わる膣肉、腰から伝わる尻肉。
 身体のどこもかしこも彼女に包まれ夢見心地のまま、その優しい表情の裏に潜んだ彼女の狂気も忘れていた。

「エ、エルミアさん……も、もうダメです……い、イクぅぅっ――!!」

 びゅるびゅるびゅるるる――!!

 彼女の体内に我慢に我慢をかさねた快感の証が迸った。
 それは尿道を伝い膣に出て行く度に裏筋を振るわせる。
 エルミアの膣肉はそれを歓迎し中へ中へと取り込んでいく。
 その精液は、彼女を淫魔にするための精液。

「あっ、あっ、あくうぅぅ――!」

「あ、あっ、あんっ……あついです……こ、れがアレク君の……あっ、はぁんっ!」

 放出が止まらない。
 それは今確実に彼女を淫魔にしているのだろう。
 だがもう手遅れだった。
 どうしようも出来なかった。
 俺は彼女を救うことも出来ずに、極上の快感と共に精液を出しながら意識を失った。
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